正規ヒロインはあちらです! / 第2話 保護者じゃねえ

正規ヒロインはあちらです!02

身長149cmチビッ子だが、小さいと言われると怒る。胸は大きめ。口が悪くて生意気。 / 2026.10.12

「へいへーい、早く終わんねぇかなぁ」

撤収までの残り時間、ゆめは柱に背を預けて小さく欠伸を噛み殺した。

儀式場では、ツキノが朧に伴われて重臣たちへの挨拶を続けている。白髪が揺れるたびに「美しい」「まさに白龍の化身」と感嘆の声が上がる。

朔は隣に立ったまま、視線だけで会場を巡回していた。

朔「……あと十五分だ」

短く告げる。

朔の視線が一瞬、来賓席へ流れた。耀は重臣と談笑しているように見えるが、時折こちらへ目を向けている。

朔「……」

朔(八咫の当主が、あんな顔でこいつを見る)

朔(霊力への興味だけなら、影の責任者に問い合わせれば済む話だ。わざわざ本人に名前を聞きに来る必要はない)

腕を組み、柱に肩を預ける。

朔(……別に、どうでもいい)

そう結論づけて、視線を正面に戻した。

――十五分後。

撤収の合図が出た。警護の影たちが順次、持ち場を離れていく。

朔「終わったぞ。行くぞ」

ゆめの背を軽く押して、儀式場の裏口へ向かう。

廊下に出た途端、空気が変わった。儀式場の緊張感から解放され、使用人たちが慌ただしく片付けに走り回っている。

朔はマスクの位置を直しながら、歩調をゆめに合わせた。

朔「……で、さっきの不敬の件。どうすんだお前」

淡々と、だが声には僅かな心配が混じる。

朔「朧が本気で怒ったら、任務の割り振りが更にきつくなるぞ。今でさえお前に偏ってんのに」

廊下の角を曲がった時――

「あ」

ツキノが立っていた。

朧に案内されて本家の奥へ向かう途中だったらしい。白髪にアッシュグレーの瞳。召喚されたばかりの《白龍の巫》が、黒髪の影と鉢合わせた。

ツキノの視線が、ゆめを上から下まで舐めるように見た。

ツキノ「あ、さっきの……警護の方ですよね? お疲れ様です~」

にこり、と愛嬌のある笑顔。表向きは完璧な礼儀正しさ。

だが内心では。

ツキノ(……この子か。耀が話しかけに行ってた黒髪)

ツキノ(小さい。胸は……でか。……は?)

ツキノ(いやいや、モブでしょ。原作にいないキャラだし)

笑顔を崩さないまま、ゆめの顔をじっと見た。

ツキノ「黒髪、珍しいですね。月詠の方なのに」

悪意はない、ように聞こえる声。

朧がツキノの後ろから現れ、ゆめを見た瞬間、表情が冷えた。

朧「……ツキノ様、あの者に構う必要はありません。参りましょう」

ゆめを見もせず、ツキノの肩にそっと手を添える。

「話しかけられて光栄ですぅ」
微塵も思ってない。形だけ頭を下げる。

ツキノの笑顔が、ほんの一瞬だけ固まった。

形だけの礼。微塵も敬意のない声色。それを読み取れないほど、ツキノは鈍くない。

ツキノ「ふふ、そんな……。私こそ、警護してくださってありがとうございます」

笑顔は崩さない。だが視線がゆめの胸元を掠めた。

ツキノ(……149くらい? なのにあの胸……何……?)

ツキノ(いやいや。モブ。モブだから。原作にいないし)

朧がツキノの背に手を添え、先を促す。

朧「ツキノ様、お部屋をご案内します。……そこの者、下がれ」

ゆめを一瞥もせず、ツキノを導いて廊下の奥へ消えていった。

二人の足音が遠ざかると、朔が小さく息を吐いた。

朔「……お前、もう少しまともに頭下げられねえのか」

壁に肩を預け、腕を組む。

朔「声に全部出てたぞ。『光栄ですぅ』じゃねえんだよ」

廊下を歩き出す。自然とゆめの歩幅に合わせた、染みついた習慣。

朔「帰るぞ。報告書は俺が書く。不敬の件は……」

言いかけて、止まった。

廊下の突き当たり、中庭に面した渡り廊下に人影がある。

耀が柱に背を預け、腕を組んで立っていた。

来賓席から離れ、わざわざこの裏動線にいる。偶然ではない。

耀「お、もう終わり? 早えな」

朔の足が止まる。ゆめとの間に、自然に半歩だけ入った。

耀は壁から背を離し、ゆっくりと近づいてきた。

耀「ゆめ。さっき途中だったろ」

琥珀の瞳が見下ろす。186cmから149cmへ。

耀「疲れねえの、って聞いた。答え聞いてねえ」

片手をポケットに入れたまま、もう片方の手で自分の顎を撫でる。

耀「当主にあの態度取れるのに、今のは随分お行儀よかったじゃねえか。巫相手だと違うのか?」

朔が口を開きかけた。

朔「八咫様――」

耀「朔、だっけ。お前に聞いてねえよ」

軽い口調だが、有無を言わせない圧がある。八咫の当主としての格が、声だけで滲んだ。

朔は口を閉じた。唇がマスクの下で引き結ばれる。

耀はゆめへ視線を戻す。

耀「なあ。お前、怨霊を一人で祓ってんだろ。どのくらいの頻度だ?」

世間話のような口調。だが目が笑っていない。

耀「月詠の中で、お前より霊力高いやつ、何人いる?」

「えー、興味ないからかわんないなあ。朔の方詳しいんじゃない?」
「怨霊はほぼ毎日。4級から1級まで。特級も1回だけあったかな」

耀の表情が変わった。

笑みが消えたわけではない。だが目の奥に、鋭いものが走った。

耀「……特級を、一回」

声が低くなる。

耀「特級ってのは、御三家の精鋭が複数人で当たる案件だぞ。それを――」

ゆめの体を、改めて見る。149cm。細い手首。小さな肩。

耀「……お前一人で?」

問いかけの形だが、答えは分かっている。あの霊力なら、不可能ではない。だが身体への負荷は尋常ではないはずだ。

耀は視線を朔へ移した。

耀「朔。お前、そばにいたんだろ」

朔「…………」

朔は答えなかった。だが沈黙が、肯定だった。

マスクの下で顎が僅かに引き締まる。

朔(……特級の時は、三日間意識が戻らなかった)

朔(俺にできたのは、物理攻撃の迎撃と、倒れたこいつを担いで撤収することだけだ)

耀は朔の沈黙を読み取り、ゆめへ視線を戻した。

耀「毎日。4級から1級。たまに特級」

指を折るように数え、低く笑った。だが笑っていない。

耀「……月詠は、お前を使い潰す気か」

独り言のように呟いて、壁から背を離す。

耀「なあゆめ。興味ないって言ったな、自分より霊力高いやつが何人いるか」

一歩、距離を詰める。朔が反射的に半歩前に出たが、耀は気にしない。

耀「答え教えてやるよ。ゼロだ。この儀式場にいた月詠の全員合わせても、お前一人に届かねえ」

琥珀の瞳が、真っ直ぐにゆめを見下ろす。

耀「それなのにお前は《影》で、当主にはあの扱いで、毎日怨霊を祓わされてる」

耀「……で、今日召喚された巫は、霊力だけならお前の半分もない」

渡り廊下の向こうから、ツキノを案内する朧の声が微かに聞こえる。

耀「面白い話だろ?」

皮肉ではなかった。怒りに近い何かが、声の底に滲んでいる。

朔が口を開いた。

朔「……八咫様。それ以上は」

耀「分かってる。月詠の内情に口を出す気はねえよ、今は」

「今は」を少しだけ強調した。

耀はポケットから小さな札を取り出し、ゆめの目の前に差し出した。八咫の紋が入った連絡用の霊符。

耀「何かあったら使え。別に恩を売るつもりはねえ。ただ――」

視線を落とす。ゆめの首元。衣服の襟が僅かに乱れかけているのを見て、すぐに目を戻した。

耀「お前みたいな霊力が、使い潰されんのは勿体ねえと思っただけだ」

軽く手を上げて背を向ける。

耀「じゃあな、ゆめ。朔も――ご苦労さん」

長い脚で悠然と歩き去る。

沈黙が落ちた。

朔はしばらく耀の背中を見送ってから、ゆめへ向き直った。

朔「……あの札、受け取るなよ」

低い声。

朔「八咫が月詠の影に直接連絡手段を渡す。どういう意味か

低い声。

朔「八咫が月詠の影に直接連絡手段を渡す。どういう意味か朔「八咫が月詠の影に直接連絡手段を渡す。どういう意味か分かるだろ」

マスクの奥から、低い声が落ちる。

朔「お前を引き抜きたいか、利用したいか――どっちにしろ、ただの親切じゃねえ」

朔「月詠にバレたら不敬どころの話じゃなくなる。朧の耳に入ったら、お前がどうなるか」

廊下に差し込む秋の陽が、朔の白髪を淡く照らしている。

朔「……受け取ったのか?」

声が僅かに硬い。

視線がゆめの手元に落ちる。八咫の紋が入った霊符。

朔の指が伸びかけて――止まった。

取り上げるか迷うように、一瞬だけ宙で固まる。

朔「……好きにしろ」

吐き捨てるように言って、歩き出す。歩幅はいつも通り、ゆめに合わせている。

朔(……何を焦ってんだ、俺は)

「おもしろ、これで連絡できるんだ」
「もしもーし?聞こえてる??」

朔が振り返った。

朔「……おい」

ゆめが霊符を掲げ、耀に話しかけている。

朔「お前……もう使ってんのか」

呆れを通り越して、声が掠れた。

霊符が淡く光る。八咫の紋が反応し、微かな霊力の振動が伝わった。

数秒の沈黙。

そして――

『……は? もう使うのかよ。渡して三十秒だぞ』

耀の声が霊符から響いた。低く、少し笑いを含んでいる。

『お前、本当に面白えな。普通、もう少し悩むもんだろ』

渡り廊下の先で、耀が足を止めて振り返っているのが見えた。霊符越しに話しながら、こちらを見ている。距離は二十メートルほど。

耀『で? 何の用だ、ゆめ』

声が楽しそうだ。

朔はゆめの隣に戻り、霊符を覗き込んだ。

朔「切れ」

低い声。

朔「今ここで八咫と通信してるのがバレたら、不敬どころか内通を疑われる」

廊下の奥から使用人の足音が近づいている。

朔の手がゆめの手首に伸び、霊符を握る指ごと下ろそうとした。

耀の声が割り込む。

耀『おい朔、聞こえてんぞ。内通って、俺が名前聞いただけだろ』

耀『――ゆめ。そっちの保護者がうるせえから、また今度な』

霊符の光が薄れ、通信が切れた。

朔の手が、ゆめの手首を掴んだまま止まっている。

朔「…………」

朔「……保護者?」

声が低い。マスクの奥で、眉間に皺が寄っているのが分かる。

朔「誰が保護者だ」

手首を掴む指に、僅かに力がこもった。だがすぐに気づいたように緩める。

朔「……いいから帰るぞ。報告書を書く。お前は飯を食え」

歩き出す。いつもの歩幅。いつもの距離。

だが耳の先が、マスクに隠れない部分が、僅かに赤い。

朔(保護者……)

朔(俺は同僚だ。ただの同僚。長年一緒に働いてるだけの)

朔(こいつに興味を持つやつなんか、いなかった。今まで一度も)

朔(……なのに、何だあの八咫は)

秋の風が渡り廊下を吹き抜け、朔の白髪を揺らした。

「あはは、面白いの貰っちゃった」

朔は歩きながら、視線を前に向けたまま呟いた。

朔「……面白いもの、ね」

声が低い。

朔「八咫の当主から直通の霊符なんか、普通もらえねえぞ」

歩幅はいつも通り、ゆめに合わせている。だが足音が少しだけ強い。

朔「それを、もらって三十秒で使う。お前は本当に――」

言いかけて、止まった。

何を言おうとしたのか、自分でも分からなくなった。

朔(……俺は何を怒ってる)

朔(こいつが八咫と繋がりを持とうが、月詠を出ようが――関係ない)

朔(同僚だ。ただの同僚。長年一緒に任務をこなしてきただけの)

だが耳の先は、まだ赤い。

廊下を抜け、月詠本家の裏手へ続く石畳の道へ出た。秋の風が冷たく吹き抜ける。

朔は足を止め、振り返った。

朔「……なあ」

声が少しだけ低くなる。

朔「耀に、何を話すつもりだ」

問いかけではあるが、語尾が僅かに硬い。

朔「あいつは興味本位で近づいてきたわけじゃねえ。お前の霊力を見て、何か企んでる」

視線がゆめの顔を真っ直ぐ捉える。

朔「お前が八咫と繋がってることが月詠にバレたら――朧はただじゃ済まさねえぞ」

朔「最悪、《影》から追放される。いや、追放で済めばいい方だ」

言いながら、朔の手がマスクの端に触れた。無意識の癖。

朔(……何でこんなに焦ってる)

朔(こいつが八咫へ行っても、俺には関係ない)

朔(……関係、ない)

そう思い込もうとして、視線を逸らした。

朔「……好きにしろ、って言ったのは俺だ」

吐き捨てるように言って、再び歩き出す。

その時――

遠くから、甲高い悲鳴が聞こえた。

朔の足が止まる。視線が鋭くなる。

朔「……怨霊か」

短刀を抜く。反射的にゆめの前へ出た。

朔「どこだ」

声が低く、冷静になる。任務モードへ切り替わった瞬間だった。

悲鳴は本家の東棟から聞こえる。使用人の居住区がある方向。

朔「……行くぞ」

振り返りもせず、走り出した。ゆめが後ろから付いてくることを、確認するまでもなく分かっている。

何度も任務を共にしてきた。互いの動きを知っている。

朔は物理攻撃を迎撃する。怨霊本体は、ゆめが祓う。

それが、二人の役割だった。

東棟へ続く渡り廊下を駆け抜ける。

使用人たちが逃げ惑い、壁に黒い霊気が這っている。

朔「……四級か、三級」

短刀を構え、霊気が物理化した触手を斬り払う。

朔「こいつは俺が抑える。本体を頼む」

振り返らずに言った。背後にゆめがいることを、疑っていない。

「はいはい、こっちは大丈夫」

ゆめが前に出た瞬間、朔は背中を任せるように位置を入れ替えた。

何度も繰り返してきた連携。言葉はいらない。

黒い霊気が東棟の廊下を這い、壁から天井へ広がっている。怨霊の本体は奥の部屋――使用人の居住区の一室に潜んでいた。

朔は物理化した触手を短刀で斬り落としながら、逃げ遅れた使用人を背後へ押しやる。

朔「使用人は全員下がれ。東棟から出ろ」

冷静な指示。振り返らず、ゆめの気配だけを背中で拾う。

怨霊が姿を現した。黒い靄の塊から、人の顔のようなものが幾つも浮かび上がる。三級――複数の未練が凝り固まった集合型。

触手が四方に伸び、廊下の柱を砕いた。破片が飛ぶ。

朔が短刀で弾く。砕けた木片がゆめの顔を掠める前に、正確に叩き落とした。

朔「本体、左奥。核は二つ」

短く報告。ゆめが祓いやすいよう、触手を斬って道を作る。

怨霊が悲鳴のような声を上げ、黒い霊気が膨れ上がった。

ゆめの霊力が応じるように高まる。

廊下の空気が変わった。

黒い霊気と、ゆめから放たれる力がぶつかり合い、空間が軋む。

三級程度なら、ゆめにとっては日常の範疇だった。

――数分後。

怨霊の残滓が消え、東棟に静寂が戻った。

朔は短刀を鞘に収め、周囲を確認する。使用人に怪我はない。柱が一本折れたが、建物の損壊は軽微。

朔「……終わりか」

息を整え、ゆめの方を見た。

朔「怪我は」

短い確認。いつもの儀式のような問いかけ。

廊下の奥から、足音が近づいてきた。

月詠の重臣が二人、息を切らせて駆けつける。

重臣「何があった――怨霊か!?」

朔「三級の集合型。既に祓い済みです」

重臣「……もう終わったのか」

重臣たちの視線がゆめへ向く。祝福のない黒髪。だが今し方、怨霊を一人で祓った張本人。

複雑な表情が浮かぶ。感謝と、それを口にしたくない屈折が入り混じっている。

重臣「……ご苦労」

それだけ言って、被害状況の確認に向かった。

朔は無言でそれを見送り、短く息を吐いた。

朔「……いつもこれだ」

ゆめにだけ聞こえる声。

朔「お前が祓って、礼も言わねえ」

廊下の壁に背を預け、マスクの位置を直す。

朔「報告書は俺が出す。お前は飯食ってこい。昼、まだだろ」

秋の日差しが、砕けた柱の隙間から差し込んでいる。

朔の視線が、ゆめの襟元に一瞬だけ落ちた。戦闘で乱れた衣服。首筋が僅かに覗いている。

すぐに目を逸らした。

朔「……襟、直せ」

ぶっきらぼうに言って、歩き出す。

「あ、ごめんごめん」
首元の黒龍の逆鱗は、朔にも見せていなかった

ゆめが襟元を直す手が、一瞬だけ首筋に触れた。

衣服の下に隠れた、硬く滑らかな感触。いつも通り、布で覆えば見えない。

朔は既に背を向けて歩き出していた。

振り返らない。だが歩幅はいつも通り、ゆめが追いつける速さ。

朔(……あいつの首元、戦闘で結構乱れてたな)

朔(まあ、怪我がなけりゃいい)

それ以上は考えなかった。長年の同僚だが、ゆめの首元を注視したことはない。任務中は互いの背中を守ることに集中し、それ以外の時間は適度な距離を保ってきた。

見る理由がなかった。

見ようと思ったこともなかった。

――少なくとも、そう思い込んでいた。

東棟から本棟へ続く渡り廊下を歩く。昼時で、使用人たちが慌ただしく行き交っている。怨霊騒ぎの報告が広まったのか、すれ違う者たちの視線がゆめに向く。

感謝ではない。畏怖と、僅かな嫌悪。

「また黒髪の……」
「祝福もないのに、あの霊力……気味が悪い」
「でも、いないと困るのよね……」

囁きが、秋風に混じって流れていく。

朔の足が、僅かに遅くなった。ゆめと並ぶ位置に調整する。

朔「……食堂、混んでるだろうな。裏の厨房から持ってくるか」

何でもない提案。だが「食堂で周囲の視線を浴びなくて済むように」という配慮が、言葉の裏に透けている。

渡り廊下の先、中庭が見える場所を通りかかった時――

ツキノの声が聞こえた。

ツキノ「朧様、あの……さっきの怨霊、大丈夫だったんですか?」

中庭に面した縁側で、ツキノが朧と並んで座っている。昼食の膳が並べられ、朧が丁寧にツキノへ茶を注いでいた。

朧「ご心配なく。取るに足りない怨霊です。既に処理されました」

ツキノ「処理って……誰が?」

朧「……《影》の者が」

名前を言わなかった。

ツキノ(影の者……さっきの黒髪の子?)

ツキノは茶碗を受け取りながら、何気なく尋ねた。

ツキノ「あの……黒髪の方って、すごい霊力でしたよね。月詠ではああいう方も……」

朧の手が止まった。

朧「……ツキノ様。あの者のことは、お気になさらないでください」

声が冷えた。

朧「穢れた血です。月詠に相応しくない。ただ霊力だけが異常に高い――それだけの存在です」

扇を開き、口元を隠す。

朧「あなたこそが正統な《白龍の巫》。あのような者と比べる必要はありません」

ツキノ「あ……はい」

ツキノは頷いたが、胸の奥に引っかかるものがあった。

ツキノ(霊力だけが異常に高い「だけ」……?)

ツキノ(でも耀は、あの子に興味を持ってた。原作にないキャラなのに)

ツキノ(……まあいいか。モブはモブだし)

ツキノ「朧様のお茶、美味しいです……!」

朧の表情が柔らかく綻ぶ。

朧「お口に合ったなら良かった。ツキノ様には、最上のものをお出しするよう申し付けてあります」

ツキノは幸せそうに茶を啜りながら、ちらりと中庭の向こう――渡り廊下を見た。

黒髪の小さな影と、白髪の長身が並んで歩いていく。

ツキノ(……あの二人、距離近いな)

ツキノ(でも、モブでしょ。朔は後半に出てくるシークレットキャラだけど条件がきついし…あとででいいや。)

視線を朧に戻し、にっこりと笑う。

渡り廊下では、朔が無言で厨房へ向かっていた。

朔「……握り飯でいいな。待ってろ」

ぶっきらぼうに言い残し、厨房の裏口へ消える。

秋風が吹き抜け、ゆめの襟元が僅かに揺れた。布の下の硬い感触が、鎖骨に冷たく触れる。

誰にも見せたことのない、その秘密。

「……はぁ。お酒も飲みたい……。今日ご飯持ってカガミのとこ行こっと」

第2話 / 全13話
  1. 第1話 出会い
  2. 第2話 保護者じゃねえ
  3. 第3話 お昼休みとお呼び出し
  4. 第4話 謝罪は形だけ
  5. 第5話 それぞれの胸の内と外周警護
  6. 第6話 外周に集まらないでください
  7. 第7話 暇潰しとお土産
  8. 第8話 半歩先の相棒
  9. 第9話 宴のあとにお呼び出し
  10. 第10話 霊符越しの声と、近すぎる相棒
  11. 第11話 いつもの朔じゃない
  12. 第12話 超える一線
  13. 第13話 ここにいて