正規ヒロインはあちらです! / 第1話 出会い

正規ヒロインはあちらです!01

身長149cmチビッ子だが、小さいと言われると怒る。胸は大きめ。口が悪くて生意気。 / 2026.10.12

月詠本家の大広間には、普段とは違う緊張が満ちていた。
床一面には巨大な召喚陣。月詠だけでなく、御三家や筆頭《八咫》からの来賓までが席を連ねている。

今から行われるのは、異界より《白龍の巫》を招くための召喚の儀だった。

正式な参列者ではないゆめは、《影》として壁際の内部警護に立っている。

祭壇へ向かう途中、月詠当主・朧が足を止めた。黒髪を一瞥しただけで、端正な顔が露骨に曇る。

 

朧「……相変わらず汚らわしい見た目だ。不快だな」

続いて霊力を確かめるように目を細める。

朧「まあいい。せめて今日くらい役に立て。お前はそれしか取り柄がない」

吐き捨て、そのまま祭壇へ向かう。

少し離れた柱際には、長年《影》で共に働いてきた朔がいた。
白髪にアッシュグレーの瞳、鼻から下を覆う黒布。
視線だけで周囲を警戒している。

朔「……聞く必要ない。無視しろ。」

短く呟き、腰の短刀へ手を添える。

朔「…いつも通り、人間は俺が見る。怨霊は任せる。」

それだけ言えば十分だった。
何度も任務を共にしてきた二人には、互いの役割など今さら確認するまでもない。

一方、来賓席。

八咫の耀は、まだ光すら宿していない召喚陣ではなく、警護に立つ黒髪へ目を向けていた。

耀「……へえ。月詠にも黒髪っているんだな」

従者「祝福を持たない者でしょう」

耀「それは見りゃ分かる。……でも、霊力高すぎねえか?」

琥珀色の瞳が、わずかに細まる。

やがて鐘が一度、二度、三度――。

召喚陣から白い光が噴き上がった。

その中心へ現れたのは、最初から白髪とアッシュグレーの瞳を持つ少女。

ツキノ「……え?」

ツキノ(待って、ここ……)

月詠の紋。見覚えのある大広間。そして来賓席には、何度も画面越しに見た金髪の男。

ツキノ(ここ《月詠の巫》じゃん!? 耀いる!! 本物!!)

戸惑いより先に、興奮が込み上げる。

ツキノ(じゃあ私……ヒロインってこと!?)

その視線が耀へ向く。

――けれど耀は、召喚されたばかりのツキノではなく、まだ壁際の黒髪を見ていた。

「…なんか視線感じるんだけど」
朔を盾にした

朔は一瞬、固まった。

朔「…………。」

無言で壁際まで下がりながら、警護位置を崩さないよう柱の影へずれる。

ゆめの小さな体が自分の背後へ入るのを確認してから、低い声で短く言う。

朔「……俺を盾にすんな。」

文句を言いながらも、体は微動だにしない。
自然に視界へ入る来賓席の八咫を、視線だけで牽制した。

一方、耀は琥珀色の瞳を細めて、壁際の様子を見ていた。

耀「……あいつ、すげえ霊力持ってんのに隠れんの?」

従者が困惑したように視線を向ける。

従者「……あの朔という影ですか? 確かに対人では最強格と聞きますが、霊力はないはず」

耀「いや、後ろの小さい方だよ。あの黒髪」

髪色や背格好だけで判断されやすい世界だが、耀は霊力の強さそのものを直接見抜ける。
視線だけで確かめるように、警護位置にいるゆめの方をじっと見た。

耀「……月詠で黒髪なのに霊力が異常に高い。しかも巫兼影って何だよ、危険すぎねえか?」

琥珀の瞳が、わずかに楽しそうに細まる。

耀「――面白え」

そして召喚陣の光が弱まり、白髪の少女が現れた。

月詠当主・朧が柔らかい微笑みで近づく。

朧「ようこそ。待っていましたよ、《白龍の巫》――ツキノ様」

丁寧な声。
先ほど黒髪へ向けた冷たさとは、まるで別人のような優しさだった。

朧は柔らかく手を取り、召喚陣の外へ導く。

朧「まずは落ち着いてください。ここが月詠の本家です。あなたの安全は、私が責任を持って守ります」

ツキノ「あ……はい……!」

白髪の少女は戸惑いながらも、月詠当主の対応に頬を染める。
原作知識では、朧は序盤から主人公を溺愛し、過保護に守る攻略対象の一人だった。

ツキノ(朧様……やっぱり優しい……!)

けれど視線を上げると、来賓席の金髪――八咫の耀は、まだ自分を見ていなかった。

ツキノ(……え?)

原作では、召喚直後に耀が興味を持ち、声をかけてくるはずだった。

耀の視線は、壁際の柱へ向いたままだった。

朧がツキノの肩へ手を添え、優しく微笑む。

朧「さあ、《祝福の儀》へ進みましょう。あなたが正式に《白龍の巫》だと、証明されます」

周囲が静まり、祭壇の前に祝福を確認する儀式用の陣が新たに描かれていく。

朧はちらりと警護位置へ視線を向け、露骨に不快そうな表情を浮かべた。

朧「……そこの穢れた髪は、儀式が終わるまで視界に入らないようにしろ。不快だ」

朔の背後にいるゆめへ、冷たく言い放つ。

朔「……。」

朔は無言で立ち位置を少しだけ調整し、柱の影へさらに寄った。

朔(……いつものことだ。)

朧はツキノへ向き直り、再び柔らかい笑み

「じゃあ視界をこっちに向けんなよばぁ〜か」
中指を突き立てる

朧の顔が凍りついた。

朧「……っ、今何と――」

言葉が続く前に、朔が咄嗟にゆめの肩を掴んで後ろへ引き、自分の背中で完全に遮った。

朔「……っ、お前……!」

低く、呆れと焦りが混じった声。

朔「……今すぐ黙れ。儀式中だぞ」

周囲の空気が一瞬で張り詰める。

月詠の重臣たちが凍りつき、来賓たちは困惑と興味の入り混じった視線を壁際へ向けた。

朧は扇で口元を隠し、露骨な怒気を滲ませる。

朧「……穢れた血の上に、礼節すら知らぬか。後で《影》の責任者から話を聞く」

冷たく吐き捨て、視線を切る。

朧「――儀式を続けろ」

そう命じて、再びツキノへ向き直った。

ツキノは召喚陣の前で固まっていた。

ツキノ(え……今の……黒髪の子、あんな態度取って大丈夫なの……?)

原作では、月詠本家は厳格で秩序を重んじる一族だった。
まして当主へ中指を立てるなど、ありえない展開だ。

ツキノ(……でも、朧様はすぐ視線を切った……?)

原作知識では、朧は礼を欠く者へ容赦なく制裁を加える性格だったはず。

朧が優しく手を差し伸べる。

朧「さあ、ツキノ様。こちらへ」

ツキノ「あ……はい……!」

白髪の少女は戸惑いながらも、朧の手を取って祭壇の前へ進んだ。

――その間も、来賓席の耀は壁際を見ていた。

耀「……おいおい、マジか」

琥珀色の瞳が、愉快そうに細まる。

耀「月詠の当主に中指立てるとか、度胸あんなあいつ」

従者「……八咫様、あれは不敬では……」

耀「そりゃそうだ。けど面白えだろ?」

耀は柱の影で朔に隠されたゆめの方を、興味深そうに見つめた。

耀「……あの霊力で、あの態度。しかも朔が庇ってる」

耀「――どういう関係なんだ、あいつら」

視線が朔へ向く。

朔は無言で警護位置を保ったまま、背後のゆめへ低く囁いた。

朔「……儀式が終わるまで、何も言うな。頼む」

声には僅かな疲労が滲んでいた。

祭壇では、《祝福の儀》が始まろうとしていた。

月詠の巫女たちが円陣を組み、白い霊力がツキノを包み込む。

やがて光が強まり――

ツキノの白髪が淡く輝き、アッシュグレーの瞳へ白龍の紋が浮かび上がった。

ツキノ「……っ!」

月詠の重臣たちが跪く。

重臣「――《白龍の巫》、ツキノ様の降臨を確認いたしました」

朧が柔らかく微笑み、ツキノの手を取った。

朧「おめでとうございます、ツキノ様。あなたは正式に《白龍の巫》として認められました」

ツキノ「あ……ありがとうございます……!」

赤くなるツキノの後ろで、壁にもたれながら ゆめはブスッと膨れていた。

「あいつら怨霊の1匹も祓えねぇ、刺客も片付けられねぇくせにさぁ。」
「あ〜あめんどくさ、外行きたい〜朔。」

朔の手が、ゆめの腕を掴んだ。

朔「……外? 今?」

低い声に、呆れと苛立ちが混じる。

朔「儀式中だぞ。警護配置から勝手に抜けたら、後で報告書じゃ済まねえ」

周囲の重臣たちがまだ凍りついている。「怨霊の一匹も祓えない」という言葉が、祝福を持つ月詠の者たちへ向けられたのは明白だった。

事実ではある。

月詠の中で、実際に前線で怨霊を祓えるほどの霊力を持つ者は限られている。ゆめの霊力は一族でも突出しており、危険な任務の多くを押し付けられてきたのも、その能力があってこそだ。

――だが、事実だからといって、この場で言っていいことではない。

朔は掴んだ腕を離さないまま、声を落とした。

朔「……言いたいことは分かる。だが今じゃない」

朔「祝福の儀が終わるまで持ち場にいろ。それが終わったら好きにしろ」

祭壇では、白い光に包まれたツキノが正式に《白龍の巫》として認定され、重臣たちが跪いている最中だった。

朧はゆめの方を見ていない。ツキノだけを見ている。

だが来賓席では――

耀「はっ……」

耀が小さく笑った。

声を殺してはいたが、肩が揺れている。

耀「怨霊の一匹も祓えねえ、か。……言うねえ」

従者が青ざめた顔で耀を窘める。

従者「八咫様、笑っては……」

耀「分かってる分かってる」

口元を手で隠しながらも、琥珀色の瞳は明らかに愉しんでいた。

耀(……あの霊力で、あの口の悪さ。月詠の当主に中指立てて、今度は一族全体に喧嘩売ってる)

耀(しかもあの朔ってやつ、怒ってるように見えて――腕掴んで止めてんのは、庇ってんだろ)

視線が壁際の二人に留まる。

耀「……帰る前に、ちょっと話してみてえな」

独り言のように呟いた。

祭壇では、祝福の儀が無事に完了していた。

ツキノ「ありがとうございます、朧様……!」

ツキノは感極まったように微笑む。

だが内心では、違和感が引っかかっていた。

ツキノ(原作だと、この場面で耀が私に声をかけてくるはずなのに……)

ちらりと来賓席を見る。

耀は、壁際の方を見ていた。

ツキノ(……誰を見てるの?)

視線を追うと、柱の影に黒髪の小さな影。白髪の男に腕を掴まれている。

ツキノ(……あの子、さっき朧様に中指立ててた……)

ツキノ(何あれ……? 原作にあんなキャラいたっけ……?)

朔の指がゆめの腕を掴んだまま、離さない。

朔「……聞こえなかったか? 祝福の儀が終わるまで持ち場にいろって言った」

低い声。感情を押し殺しているが、苛立ちが滲む。

ゆめの身長は149cm。朔の胸元あたりまでしか届かない。掴まれた腕を引いても、朔の方が圧倒的に力がある。

朔「お前が抜けたら内部警護に穴が開く。俺は怨霊を祓えない。分かってるだろ」

事実だった。朔は対人戦では最強格だが、霊力を持たない。怨霊が万一侵入した場合、この場で対処できるのはゆめだけだ。

朔は掴んだ腕を引き寄せ、自分の隣――柱の影に収まる位置へ戻した。

朔「……あと三十分だ。それまで黙って立ってろ」

声は低いが、命令というより懇願に近い。
これ以上問題を起こせば、朧の不敬の件と合わせて処分が重くなる。朔はそれを分かっている。

祭壇では、祝福の儀を終えたツキノが朧に手を引かれ、来賓への挨拶に移っていた。

朧「ツキノ様、こちらは八咫の御当主、耀様です」

ツキノの心臓が跳ねた。

ツキノ(耀……! 本物の耀……!)

原作では、ここで耀がツキノに興味を持ち、「へえ、お前が巫か」と声をかける。そこから始まる耀ルートの導入イベントだった。

ツキノ「は、初めまして……ツキノです」

頬を染め、控えめに微笑む。完璧な第一印象を意識した、計算された仕草。

耀は立ち上がり、ツキノを見下ろした。

耀「ああ、お疲れさん。大変だったな、いきなり召喚されて」

軽い口調。悪意はないが――原作のような、特別な興味の色がない。

社交辞令だった。

ツキノ(……え?)

原作では、耀はこの瞬間にツキノの霊力に惹かれ、「面白え」と笑うはずだった。

耀はツキノへ一通りの挨拶を済ませると、自然に視線を外した。

――壁際の柱の影へ。

耀(……あの黒髪、まだいるな)

小さな体。黒い髪。朔に腕を掴まれて、不満そうに口を尖らせている。

耀(月詠で黒髪。祝福なし。なのにあの霊力……この場にいる月詠の連中より、全員よりも高い)

耀(しかも巫兼影。怨霊退治の前線に出てるってことだろ? あの体で?)

琥珀色の瞳が、僅かに細まった。

耀「……なあ、朧」

朧「はい、耀様。何でしょう」

耀「あの壁際の黒髪。お前んとこの影だろ? 名前は?」

朧の表情が一瞬、強張った。

朧「……取るに足りない者です。お気になさらず」

耀「いや、気になるから聞いてんだけど」

朧「……分家の出です。祝福を持たない、ただの……」

耀「ただの? あの霊力で?」

朧が口を閉じた。

耀は軽く肩を竦め、来賓席から離れた。

そのまま、壁

耀は軽く肩を竦め、来賓席から離れた。

そのまま、壁そのまま、壁際へ向かって歩き出した。

朔が気配を察知し、即座に身体の角度を変えた。

朔「……来るぞ」

短く、ゆめにだけ聞こえる声。

耀は長い脚で悠然と距離を詰め、柱の影に立つ二人の前で足を止めた。

耀「よお。警護ご苦労さん」

朔の背後に隠れたゆめを覗き込むように、少しだけ首を傾ける。身長差で、朔越しでも簡単に見下ろせた。

耀「さっき当主に中指立ててたの、お前だろ」

琥珀色の瞳が、真っ直ぐにゆめを捉える。

耀「――名前、聞いていいか?」

朔の手が、無意識にゆめの腕へ触れた。

朔「……八咫様。警護中ですので、ご用件があれば後日――」

耀「堅えな。別に怒りに来たわけじゃねえよ」

笑みを深め、視線を外さない。

「うぉ、でっか、朔と同じくらい?朔よりでかいかも……。」
「ゆめですハジメマシテ」

耀の琥珀色の瞳が、一瞬だけ見開かれた。

ゆめの視線は真っ直ぐ上を向いている。朔の背後から半歩だけ出て、首を反らすようにして耀を見上げていた。

身長差は三十センチ以上ある。

耀「っは……」

短く笑った。堪えきれなかったように肩が揺れる。

耀「お前、第一声がそれか」

見下ろす視線には嘲りがない。純粋に面白がっている。

耀「ゆめ、ね。覚えた」

片手をポケットに入れたまま、もう片方の手で自分と朔を交互に指す。

耀「俺が186。そっちの影は……」

朔を一瞥する。

朔「……聞いてない」

素っ気なく返す朔を無視して、耀はゆめへ視線を戻した。

目線を合わせるために、わずかに腰を屈める。それでもまだ見下ろす形になる。

耀「ゆめ。お前、月詠の分家だろ。黒髪で、祝福なしで――なのにこの場の誰より霊力が高い」

声を落とす。周囲に聞こえないよう、自然に距離を詰めていた。

耀「当主に中指立てて、一族に喧嘩売って。……何でそんな余裕あんの?」

問いかけの形だが、目は笑っている。

答えを聞きたいというより、反応を見たい目だった。

朔の手が、再びゆめの腕に触れた。

今度は掴むのではなく、肘のあたりに指を添える。引き戻すための準備のような、無意識の動作。

朔「……八咫様。警護中です」

繰り返す。声は平坦だが、朔の視線は耀の手の位置を追っていた。ゆめとの距離を測っている。

耀「だから怒りに来たわけじゃねえって」

朔を見もせずに言い、視線はゆめに固定したまま。

耀「なあゆめ。儀式終わったら、少し話さねえ?」

軽い口調。だが琥珀の瞳は真剣だった。

――来賓席の方から、視線が刺さる。

ツキノは朧の隣に立ちながら、耀が壁際の黒髪に話しかけている姿を見ていた。

ツキノ(……え、待って。耀が……あの子に?)

原作では、耀がヒロイン以外の女性に自ら話しかけに行く場面など存在しなかった。

ツキノ(ゆめ……? そんな名前のキャラ、原作にいなかった)

ツキノ(でもあの霊力……確かにおかしい。黒髪なのに、月詠の誰よりも……)

胸の奥に、小さな棘のようなものが刺さる。

まだ嫉妬ではない。ただの違和感。

ツキノ(……大丈夫。原作では耀は私に惹かれるはず。あの子はきっと、ただのモブ)

そう自分に言い聞かせた。

「いいのいいの、偉そうなこと言ったって怨霊祓えないんだから」

耀が目を細めた。

耀「……へえ」

軽い相槌。だが声の温度が少し変わった。

耀「つまりお前が実質、ここの戦力ってことか」

問いかけではなく、確認だった。儀式場にいる月詠の重臣、巫女、本家の者たち――その誰よりも霊力が高いのは、壁際で警護に立たされている黒髪の小さな女だという事実。

耀は視線を祭壇へ流した。居並ぶ白髪の月詠たち。祝福を持ち、家格を誇り、格式ある装束に身を包んでいる。

耀「あいつらが偉そうにしてて、怨霊が来たらお前が前に出る」

視線を戻す。

耀「……で、当主にはあの扱い」

耀「面白い一族だな、月詠って」

皮肉だった。だが、ゆめに向けた声には嘲りがない。

朔は黙ったまま、耀との距離を測り続けていた。

朔(……何が目的だ、八咫)

耀がゆめの霊力に興味を持っている。それは分かる。だが八咫の当主がわざわざ警護の影に話しかけに来る理由としては、それだけでは説明がつかない。

朔の指が、ゆめの肘に触れたまま離れない。

耀はその動作を見ていた。

一瞬だけ、琥珀の瞳が朔の手元へ落ちる。

耀(……あの朔ってやつ、ずっと触ってんな)

何も言わず、視線をゆめへ戻した。

耀「なあゆめ。お前、いつもこんな感じか?」

耀「当主に中指立てて、一族に喧嘩売って、でも怨霊は全部お前が片付ける」

少しだけ腰を屈め、ゆめの目線に近づく。

186cmと149cm。屈んでも、まだ見下ろしている。

耀「……疲れねえの?」

声が少し低くなった。

からかいではない。純粋な問いだった。

――その時、祭壇の方から声がかかった。

重臣「耀様、ツキノ様が御挨拶を……」

耀は体を起こし、軽く手を上げた。

耀「はいはい。……ゆめ、また話そうぜ」

振り返らずに歩き出す。だが去り際、朔へ一瞥だけ投げた。

耀「――お前も、大変だな」

意味深な一言を残し、来賓席へ戻っていく。

朔は無言だった。

朔「…………」

耀が離れてから、ようやく指がゆめの肘から離れた。

朔「……あいつには気をつけろ」

低く、短く。

朔「八咫の当主が、ただの興味で影に話しかけに来るわけがない」

言いながら、視線は耀の背中を追っている。

朔(……何を見てる、あいつは)

朔(こいつの霊力か。それとも――)

考えを振り払うように、短刀の柄に手を戻した。

朔「……儀式は終わった。撤収まであと少しだ。大人しくしてろ」

第1話 / 全13話
  1. 第1話 出会い
  2. 第2話 保護者じゃねえ
  3. 第3話 お昼休みとお呼び出し
  4. 第4話 謝罪は形だけ
  5. 第5話 それぞれの胸の内と外周警護
  6. 第6話 外周に集まらないでください
  7. 第7話 暇潰しとお土産
  8. 第8話 半歩先の相棒
  9. 第9話 宴のあとにお呼び出し
  10. 第10話 霊符越しの声と、近すぎる相棒
  11. 第11話 いつもの朔じゃない
  12. 第12話 超える一線
  13. 第13話 ここにいて