正規ヒロインはあちらです!13
「あ゛ぁ、……朔……朔……もう……も、もう変なる……!無理…やだ!!」
「変になる」。
朔の腰が、速くなった。
朔「——なれ」
低い。喉の底から。
朔「変になれ。俺の前で。俺のせいで」
ゆめの両脚を抱えたまま、深く沈めた。小さな体が畳の上で跳ねる。胸が揺れる。逆鱗が黒く明滅し、朔の腕の黒い筋が肩まで這い上がる。霊力が抜けていく。
朔の視界の端が白く霞む。構わなかった。むしろ、腰に力が籠もった。
朔「やだ、じゃない」
ゆめの髪を掴んだ。頭を引き上げ、涙に濡れた顔を見下ろす。星のような瞳の焦点が、もう合っていない。
朔「俺の名前だけだって言った。……ほら」
内側が痙攣している。朔を締め付けて、放さない。限界が近い。ゆめの体が、自分でも制御できない場所へ落ちかけている。
朔「——いけ」
耳元へ、唇を寄せた。熱い息。弱い場所。
朔「俺の名前を呼びながら、いけ」
ゆめの口が開いた。
「さ、朔……っ、朔……!!」
砕けた声。全身が弓なりに反り、内側が朔を限界まで締め付けた。朔の喉が鳴り、歯を食いしばった。
ゆめの体が畳の上で痙攣する。逆鱗が一際強く明滅し——朔の霊力が、一気に吸い上げられた。

朔「っ、——ぐ、……」
視界が揺れた。だが腰は止めなかった。
ゆめが震えている間も、朔は深く沈めたまま動き続けた。容赦なく。達した体を、さらに追い立てる。
朔「……まだだ」
掠れた声。震える唇で、ゆめの首筋に歯を立てた。
朔「俺が終わってない」
腰骨を掴み直す。逃がさない。
朔「俺が終わるまで——何度でも、変になれ」
深く。
朔「中に出す。……お前の体に、俺を残す」
さらに深く。朔の呼吸が荒い。額の汗が止まらない。霊力を奪われ、脱力しかけた体を、意志だけで動かしている。
朔「拒むな。初めてで、俺が最初で、俺のものだ。——全部、覚えろ」
限界が来た。
朔が、ゆめの口を塞いだ。掌で。漏れかけた悲鳴を全部呑み込む。腰を根元まで押し込み、動きを止めた。
朔「っ……ぁ、——」
熱いものが、ゆめの奥に注ぎ込まれた。
長い。何度も脈打つ。朔の体が震え、ゆめの小さな体に覆い被さったまま、息を吐いた。
沈黙。
月明かりだけが差す部屋。畳の軋みが止まり、二人の荒い呼吸だけが残る。朔の腕の黒い筋が、ゆっくりと薄れていく。
朔「……は、……」
掌を口から離した。ゆめの濡れた唇。涙の跡。噛み跡の残る首筋。
朔は、動かなかった。抜かなかった。ゆめの奥に収まったまま、額をゆめの額に押し付けた。
朔「……言ったろ」
掠れた、壊れた声。
朔「無理じゃなかった」
長い間を置いて。
朔「……抜かない。……まだ、入ってる。このまま」
ゆめの髪に指を通した。乱れた黒髪を、梳くように。荒い呼吸が、少しずつ落ちていく。
朔「隣……起きたかもな」
掠れた、半分笑うような声。
朔「構わない。聞かれて困るのは、お前じゃなくて俺だ」
額を離した。見下ろす。涙の跡、噛み跡、紅潮した頬。星の瞳が、焦点を取り戻しきれないまま朔を見上げている。
朔(……この顔を、他の誰にも見せない)
逆鱗が、静かに沈んだ色へ戻っていた。朔の腕から黒い筋が消える。脱力が、今になって押し寄せる。それでも腕は離さなかった。
朔「明日、巫の護衛だ。耀が来る」
低い声。ゆめの首筋の噛み跡を、親指でなぞる。
朔「襟は、きちんと直せ。……ここが見えないように」
一拍。
朔「——見えたら、何されたか聞かれるだろ。……お前が、俺の名前を呼んだこと」

「見えるとこに……痕残さないで……。せめて隠れるとこにして……」
朔の指が、止まった。
ゆめの首筋に残した噛み跡の上で。
朔「……隠れるとこ」
低い声が、暗い部屋に落ちた。
まだ繋がったまま。ゆめの小さな体の奥に収まったまま、朔は見下ろしている。
月明かりが、ゆめの鎖骨と、乱れた着物の隙間から覗く逆鱗を照らす。
朔「お前が、言うのか。それを」
ゆめの腰を掴み直した。まだ抜かない。中で微かに脈打っている。
ゆめの内壁が、余韻で痙攣するたびに、朔の喉が鳴る。
朔「隠れるとこ、ね」
親指が、首筋の噛み跡を撫でた。赤く腫れている。明日、襟を正しても——高い位置だ。見える。
朔「……わかった」
その声に、従順さはなかった。
朔の唇が、首筋から降りた。鎖骨を舐め、胸の谷間に顔を埋める。
ゆめの体が震えた。まだ敏感すぎる。
朔「ここなら、隠れるな」
胸の内側。柔らかい肌。着物で隠れる場所。朔の歯が立った。噛んだ。強く。
ゆめの背が跳ねる。
朔「ここも」
反対側。胸の下。肋骨に沿って。逆鱗のすぐ横。歯を立て、吸い、跡を残す。
ゆめの口から声が漏れた。
朔「ここも……隠れる」
腰骨。薄い腹の下。指で着物の裾を押し上げ、内腿に唇を寄せた。柔らかい。白い。ここに跡を残せば、誰にも見えない。
——ゆめにしか、わからない。
朔「お前が望んだんだ」
内腿に歯を立てた。噛んだ。ゆめの脚が跳ね、閉じようとする。朔の肩が割り込んで、許さない。
朔「隠れるとこに、って」
吸い上げた。赤い跡が浮かぶ。一つ。二つ。内腿の柔らかい皮膚に、朔の形が刻まれていく。
朔「……ここに痕つけたら」
顔を上げた。ゆめを見下ろす。涙の跡、紅潮した頬、焦点の合わない星の瞳。
朔「明日、歩くたびに思い出す。脚を閉じるたびに、擦れて——俺のことを考える」
繋がったままの腰を、浅く動かした。ゆめの体が震えた。もう限界を超えている。それでも朔は止めない。
朔「耀に顔を覗かれても。朧に呼ばれても。護衛中ずっと——ここが、疼く」
内腿の噛み跡を、親指で押した。ゆめが声を殺す。
朔「それでいいだろ。……見えるとこには、残さない」
口元が歪んだ。笑みとも苦痛ともつかない表情。
朔「お前の望み通りだ」
ゆめの髪を梳いた。乱れた黒髪を、指で整えるように。矛盾した優しさ。
朔「……首は、明日までに薬を塗れ。前に置いた軟膏、まだあるだろ」
声が、少しだけ柔らかくなった。ほんの少しだけ。
朔「足りなきゃ、俺のを持ってくる」
長い沈黙。
朔は、ようやく——ゆっくりと、腰を引いた。抜ける感覚。
ゆめの中から、朔のものが抜けた。白い筋が内腿を伝い、畳に落ちる。
朔「……」
朔の腕が震えていた。霊力を吸われた脱力。
それでも、ゆめの横に倒れ込むことはしなかった。片膝をつき、ゆめの乱れた着物の裾を引いて、露わになった脚を覆う。
朔「……動くな。まだ脚、震えてる」
掠れた声だった。
ゆめへ羽織をかけ直し、傍に落ちていた布を引き寄せる。
朔「水、取ってくる。——立つなよ」
立ち上がりかけた、その時だった。
膝が折れた。
壁へ手をつき、辛うじて体を支える。
視界が白く明滅し、指先から感覚が遠のいた。
朔「……ちっ」
ゆめが顔を上げる。
月明かりに照らされた朔の肌は、青白かった。
汗に濡れた前髪の下で、眉がきつく寄っている。
「……霊力……吸われてるじゃん……馬鹿。」
朔の肩が止まった。
「……ここから戻せるか……試して。ここ。」
ゆめは襟を必要な分だけずらし、鎖骨の逆鱗を指先で示した。
黒い鱗が、月明かりを鈍く返す。
朔「……何言ってる」
壁から離れ、膝をつく。
そのまま、ゆめの傍へ戻った。
脚はまだ震えていた。
朔「馬鹿は、お前だろ」
逆鱗を示す手へ、そっと触れる。
朔「吸われてるのは分かってた。途中から、腕に黒い筋が走って——」
言葉が途切れた。
黒い鱗を見下ろす。
先ほどまで激しく明滅していたものが、今は静かな色をしていた。
朔「……ここから、戻す?」
ゆめにも、確信はなかった。
逆鱗に触れた時、霊力が動いた。
なら、逆のこともできるのではないか。
思いついたのは、それだけだった。
「分かんない……。でも、ここなら……」
朔が、その顔を見る。
疲れている。
それなのに、自分のことより朔の顔色を気にしていた。
朔(こいつは、いつもこうだ)
朔(自分も限界のくせに)
長い沈黙の後、息を吐く。
朔「——少しだけ、試す」
ゆめの手を脇へ退かし、指先で逆鱗に触れた。
硬い。
滑らかで、人間の肌とは違う感触。
それでも縁には、ゆめの体温があった。
朔「……っ」
指先から手首へ、黒い筋が一瞬走る。
朔は息を詰めた。
だが、先ほどとは違った。
力を奪われる感覚がない。
逆鱗に触れたところで、何かが留まっている。
朔「……待て。さっきと違う」
ゆめの肩が、微かに震えた。
朔「痛いか」
すぐに顔を覗き込む。
「……痛くは、ない」
朔「じゃあ、何だ」
「分かんない。……変な感じ」
朔は指を動かすのをやめた。
掌をそっと添え、反応を待つ。
黒い鱗が、その下で脈打った。
一度、二度。
ゆめの呼吸が、少し深くなる。
「……なんか、引いてく感じ……」
朔「何が」
「胸の奥の……重たいの。うまく言えないけど……」
初めての感覚だった。
霊力が溜まっているのか。
それが流れ出しているのか。
ゆめには、まだ分からない。
ただ、朔が触れていると、体の内側にあった落ち着かなさが少し薄れる。
「……もう少し、戻せるかも」
朔の眉が寄った。
朔「俺に戻して、お前はどうなる」
「……分かんない。でも、朔が苦しそうだから」
朔は口を閉じた。
逆鱗へ添えた掌の下で、流れが変わる。
温かいものが、細く指先へ伝わってきた。
急激ではない。
呼吸に合わせるように、少しずつ。
朔「……戻ってくる」
視界の白い霞が薄れた。
冷えていた指に感覚が戻り、腕を支える力も戻ってくる。
朔は、ゆめの顔を見た。
朔「苦しくないか」
「……さっきより、息しやすい」
朔は掌を僅かに浮かせた。
温かさが弱まる。
もう一度添えると、細い流れが戻った。
朔「……手を離せば止まるみたいだな」
断定せず、確かめるように言う。
朔「少しずつだ。何か変だったら、すぐ言え」
ゆめが頷く。
朔は横へ腰を下ろし、壁に背を預けた。
掌は、逆鱗へ添えたままだった。
朔「……こうなったの、初めてか」
「うん……」
朔「吸ったのも、戻してるのも?」
もう一度、頷く。
朔は長く息を吐いた。

朔(こいつにも、分からなかったのか)
朔(何が起きるかも。どう止めるかも)
隠していたことを責めた自分の声が、頭をよぎる。
逆鱗の存在を知っていても、その働きまで分かっていたとは限らない。
まして、今起きていることは二人とも初めてだった。
「……私、また吸っちゃうのかな」
小さな問いに、朔の手が止まる。
朔「分からない」
誤魔化さずに答えた。
朔「だが、今は戻せてる。離せば流れも止まる」
「でも……」
朔「一度で全部分かるわけがないだろ」
ぶっきらぼうな声だった。
掌の力は、柔らかい。
朔「次におかしいと思ったら、黙って耐えるな。俺に言え」
ゆめの視線が下がった。
朔「……一人で試すなよ」
その言葉だけ、少し強くなる。
朔「他の奴に試させるのも、まだやめとけ。何が起きるか分からない」
鎖骨の黒い鱗へ目を落とした。
朔「耀にも、朧にも。カガミにも、今は見せるな」
一拍。
朔「隠してきた理由は分かった。……だが、これからも全部一人で抱えることはない」
霊力の流れが、徐々に弱くなる。
朔の顔には血色が戻っていた。
ゆめの呼吸も落ち着いている。
朔は掌を離した。
黒い鱗の光が静まり、艶だけが残った。
朔「……今日は、ここまでだ」
「もう、平気?」
朔「さっきよりはな」
今度は、急に立ち上がらなかった。
壁に手をついてゆっくり腰を上げ、棚の水差しから杯へ水を注ぐ。
戻ってきた足取りは、先ほどより確かだった。
朔「少し飲め」
ゆめへ杯を渡し、自分も水を飲む。
それから、襟を整えた。
鎖骨の逆鱗を布で覆い、羽織を肩へかけ直す。
朔「休め。五時に起こす」
指先には、まだ僅かな震えが残っていた。
ゆめが、羽織の袖から手を伸ばす。
「……ここにいて」
朔の動きが止まった。
呼吸が、一つ分だけ長くなる。
十年以上、同じ詰所で寝起きした。
任務に出て、帰ってきて、報告して、飯を食う。
近くの部屋で眠る気配がある。
それが当たり前だった。
けれど、「ここにいて」と言われたのは初めてだった。

朔「……どこにも行かない」
掠れた声。
隣へ座り直し、肩へ腕を回す。
ゆめが寄りかかると、その頭をそっと支えた。
朔「お前に言われなくても、ここにいる」
黒い髪を、指で梳く。
朔「明日も。明後日も。面倒な任務に突っ込まれても、朧に呼ばれても」
言葉を切った。
朔「……勝手にいなくなったりしない」
ゆめの指が、朔の服を掴む。
強い力ではない。
そこにいることを確かめるような、小さな動きだった。
朔は、その手を外さなかった。
朔「寝ろ」
命令のはずなのに、響きは柔らかい。
ゆめの呼吸が、少しずつ深くなっていく。
朔の顎の下へ、黒い髪が収まる。
百八十六センチの体へ寄りかかる、百四十九センチの体。
任務中は、対等な相棒だった。
何度も背中を預けてきた。
今、腕の中で眠りかけている姿は、驚くほど小さく見える。
朔(……こんなに、小さかったか)
羽織がずれないよう、肩へ引き上げた。
ゆめが微かに身じろぎする。
朔は腕の力を緩め、楽な姿勢へ支え直した。
朔「……苦しかったら言え」
返事は、小さな吐息だけだった。
やがて、規則正しい寝息が聞こえ始める。
朔はしばらく、その顔を見ていた。
眠ったことを確かめてから、傍の寝具を引き寄せる。
頭を支えたまま、ゆっくり横たえた。
服を掴んでいた指が動く。
朔「……いる。ここだ」
手を添えると、力が緩んだ。
羽織の上から掛け布をかけ、枕元へ座る。
暗い天井を見上げながら、明日のことを考えた。
巫の護衛。
耀。
カガミへの報告。
そして、黒龍の逆鱗。
朔(刺客の情報は報告する)
朔(だが、こいつのことは——)
眠っているゆめへ目を戻す。
朔(今は、言わない)
何が起きたのか、二人とも分かっていない。
そのまま月詠へ知らせれば、ゆめがどう扱われるかは想像できた。
朔(まず、こいつと確かめる)
朔(俺が勝手に、誰かへ話すことじゃない)
額へ、そっと唇を落とす。
朔「……五時に起こす」
眠っている相手へ、もう一度言った。
壁へ背を預け直す。
自分も少しは休まなければ、明日の任務に響く。
目を閉じると、「ここにいて」という声が蘇った。
手元には、ゆめの指先が触れている。
朔「……いる」
寝息を乱さないほどの、小さな声だった。
夜が更けていく。
