正規ヒロインはあちらです! / 第11話 いつもの朔じゃない

正規ヒロインはあちらです!11

身長149cmチビッ子だが、小さいと言われると怒る。胸は大きめ。口が悪くて生意気。 / 2026.10.12

朔「知りたくなかった」

嘘だ。

朔「知ったら——戻れない」

顎を掴んだ手が、ゆめの顔を上へ向かせた。

首が反る。
月光に晒された喉が、小さく動いた。

壁の冷たさが背中に伝わる。
大きすぎる羽織の中で、肩が強張った。

朔「……部屋に入れ」

低い声だった。

朔「あと三秒だ。入らなかったら——」

言葉が途切れる。

顎に添えられていた指が、首の側面へ移った。
襟に隠れた鎖骨の手前で止まる。

朔「俺のせいにするな」

ゆめは、動けなかった。

部屋に入れと言われた。
引き戸へ手を伸ばせばいい。

分かっているのに、体が言うことを聞かない。

目の前にあるのは、見慣れた朔の顔だった。
けれど、その目も、声も、いつもとは違う。

何を言えばいいのか。
動いたら、どうなるのか。

考えるほど、息が浅くなった。

一秒。

指先が、羽織の袖の中で縮こまる。

二秒。

口を開きかけた。
声が出ない。

三——。

引き戸には、手が届かなかった。

代わりに、近くにあった朔の胸元の布を掴んでいた。

近づきたいからではない。
膝から力が抜けそうで、何かに縋らなければ立っていられなかった。

朔の目が見開かれる。

朔「——お前」

視線が、布を掴む小さな手へ落ちた。

朔「入らないのか」

違う。

入らないのではなく、入れない。

ゆめは首を振ろうとした。
顎を上げられた姿勢のままでは、うまく動かせなかった。

朔「入らないなら——俺は」

震えも、沈黙も。
胸元を掴んだ指も。

どれも、続きを望む返事ではなかった。

けれど、その意味を確かめる言葉が出る前に、朔の手がゆめの体を掴んだ。

 

片腕で腰を抱え、もう片方の手で引き戸を開けた。蹴るように中へ入り、背中で戸を閉めた。暗い部屋。月明かりだけが障子の隙間から差し込んでいる。

畳の上に、ゆめを押し倒した。

大きすぎる羽織が広がって、ゆめの体が黒い布の中に沈む。白い肌。散らばる黒髪。見上げてくる星のような瞳。

朔は、その上に覆い被さった。

朔「……俺のせいじゃないからな」

低い。掠れている。壊れかけの声。

朔の手が、ゆめの顎を掴んだ。昼間の朧と同じ場所。だが角度が違う。上から、押さえつけるように。
親指が顎の痣——朧がつけた跡を、ゆっくりと撫でた。

朔「……ここに、あいつの痕が残ってる」

声が低くなる。暗くなる。

朔「消す」

唇が落ちた。顎の痣の上に。舌が這った。朧がつけた紫色の跡を舐めるように、歯で軽く噛んだ。
ゆめの首が反る。喉から、小さな声が漏れた。

朔(——この声)

朔(さっき、廊下で聞いた声と同じだ)

朔(もっと聞きたい)

朔の手が、羽織の襟を開いた。クリップが弾け飛んだ。着物の合わせが崩れ、鎖骨から胸の谷間まで一気に晒された。

朔の動きが止まった。

月明かりの中。白い肌。小さな体に不釣り合いなほど豊かな胸が、着物の隙間から溢れている。肌着の紐が肩から落ちかけている。呼吸のたびに柔らかく揺れる。

朔「……これを、押し込んでたのか」

声が低い。喉の奥が焼けている。

朔「俺の目の前で。カガミの前で。耀の前で——」

手が伸びた。ゆめの胸に触れた。

指が沈んだ。柔らかい。想像を超えていた。149センチの小さな体に、手のひらに収まりきらない大きさ。指の間から白い肉が溢れる。

朔「っ——」

朔の息が止まった。

朔(柔らかい)

朔(こんなに——こんなに、柔らかいのか)

朔(何年も隣にいて。何度も襟を直せと言って。その下が、こんな——)

指が、無意識に握った。ゆめの体が跳ねた。背中が畳から浮いた。声が漏れた。甘い、壊れかけの声。

朔「声を出すな」

命令。低い声。だが手は止まらない。

朔「壁が薄い。隣の部屋に——」

ここは《影》の詰所だ。壁一枚の向こうに、同僚たちが寝ている。

しかし朔の手は止まらなかった。

朔「……聞かれるぞ」

低い。だが指はゆめの胸を掴んだまま離れない。柔らかい肉が指の間から溢れている。

朔「声、出すなよ」

空いた手がゆめの口を塞いだ。大きな掌が、唇から顎まで覆う。ゆめの吐息が指の隙間から漏れる。熱い。湿っている。

朔の膝が、ゆめの脚の間に割り込んだ。着物の裾が捲れ上がる。白い太腿が月明かりに晒された。

朔「——こんな体してたのか」

声が壊れている。

朔の目が、ゆめの全身を舐めるように辿った。黒髪が畳に散っている。口を塞がれた星のような瞳が、潤んで見上げてくる。
大きすぎる羽織の中で、小さな体が震えている。

朔「……何年も、隣にいたのに」

親指が、塞いだ口の上からゆめの下唇を押した。

朔「知らなきゃよかった」

嘘だった。

ゆめの鎖骨の間にある黒龍の逆鱗が顕になる。

朔の手が止まった。

着物の合わせが崩れ、羽織が肩から落ちかけたゆめの鎖骨のあたりに。

月明かりが、それを照らしていた。

鱗。

黒い、鱗。

畳に押し倒されたゆめの体。白い肌の上に浮かび上がる、黒曜石のような光沢を持つ逆鱗。
月光を受けて虹色に揺らめく。小さな体に似合わない、禍々しいほどの美しさ。

朔の呼吸が、完全に止まった。

朔「——なん、だ、これ」

声が出ていなかった。唇が動いただけだった。

ゆめの口を塞いでいた手が離れた。胸を掴んでいた指が、逆鱗の縁に触れた。硬い。滑らかで、冷たくて、人間の肌ではない感触。
指の腹で撫でた瞬間、鱗が微かに脈打った。ゆめの体が痙攣するように跳ねた。

朔「っ——」

朔の指が弾かれたように離れた。

だが目は離れなかった。

暗い部屋の中、月明かりだけが差す畳の上。黒髪が散り、着物が乱れ、羽織に埋もれた小さな体の——肋の下に。

黒い鱗が、呼吸に合わせて明滅している。

朔(黒)

朔(黒い、鱗)

朔(——逆鱗)

朔の顔から、すべての色が消えた。

《影》の人間だ。月詠の暗部で何年も働いてきた。怨霊を斬り、裏を知り、一族の禁忌に触れてきた。だから——知っている。

黒龍。

滅びたはずの、龍脈の王。月詠が千年かけて狩り尽くしたはずの存在。その逆鱗が、人間の体に顕れるということが何を意味するか。

朔「お前——」

声が震えていた。口を塞いでいた手が、畳についている。ゆめの顔の横。覆い被さったまま、見下ろしている。

朔の目が、ゆめの顔を見た。

星のような瞳。黒い髪。月詠に生まれながら、祝福の証を一つも持たなかった女。異常なほど高い霊力。捨てられるはずだったのに、生かされた理由。

朔(——霊力が高すぎた)

朔(祝福がなかった)

朔(白髪でも、アッシュグレーの瞳でもなかった)

朔(黒髪だった。ずっと——最初から)

全部、繋がった。

朔の手が震えている。ゆめの顎を掴んでいた指が、力を失っている。数秒前まで欲望に燃えていた目が、今は別の感情で揺れていた。

恐怖ではない。

嫌悪でもない。

朔「——何年、黙ってた」

低い。掠れている。

朔「俺の隣で。俺と任務に出て。俺に背中を預けて——」

朔「これを、隠してたのか」

声が割れた。怒りとも苦痛ともつかない。

朔は体を起こした。覆い被さっていた姿勢から、片膝をついた状態へ。
ゆめを見下ろしている。畳に広がる黒髪。乱れた着物。露わになった逆鱗が、月光の中で静かに脈動している。

朔が、ゆめの逆鱗に口付ける。 両手を片手で束ねて。

朔の唇が、逆鱗に触れた。

硬い。冷たい。人間の肌ではない感触が、唇の粘膜に伝わる。黒曜石のような鱗が、口づけた瞬間——脈打った。

ゆめの体が跳ねた。

「っ——」

声が漏れた。背中が畳から浮き上がり、束ねられた両手が朔の片手の中でもがく。だが朔の指は鉄のように締まっていて、手首の細い骨が軋んだ。

朔の唇が離れない。

逆鱗の上で、舌が這った。

鱗の縁を舐め上げると、黒い表面が虹色に明滅した。
ゆめの霊力が、逆鱗を通じて朔の舌先に触れる。電流のような痺れ。朔の舌が一瞬止まり——また動いた。今度は鱗の中心を、押しつけるように。

ゆめの喉から、甘い悲鳴が零れた。

朔「……ここか」

唇を離さないまま、声が振動として逆鱗に伝わる。

朔「ここに触れると——こんな声、出すのか」

片手でゆめの両手首を頭上に押さえつけたまま、空いていた手が着物の合わせをさらに開いた。
白い肌が月明かりに晒される。肋骨の下、左の脇腹から胸の谷間にかけて。逆鱗は、思っていたより大きかった。

親指ほどの黒い鱗。

その周囲の肌が、赤く染まっている。朔の唇と舌が這った跡。

朔「何年——」

声が震えている。

朔「何年、こんなもの抱えて」

唇が逆鱗の縁を辿った。鱗と肌の境目——一番敏感な場所だと、今の反応で分かった。
舌先がその境界線をなぞると、ゆめの腰が跳ね上がった。束ねられた手首が、朔の掌の中で痙攣する。

朔「暴れるな」

低い声で命令される。
だが声の奥に、別のものが混じっている。怒りでも欲望でもない——恐怖に近い何か。

朔(黒龍)

朔(こいつが——黒龍)

朔(月詠が千年かけて滅ぼした存在が、こんな小さな体の中に)

朔(バレたら——)

朔の歯が、逆鱗の縁を噛んだ。軽く。だが確かに。硬い鱗の感触が歯に伝わり、ゆめの全身が弓なりに反った。

「あ——っ」

声を殺しきれていなかった。壁が薄い。隣の部屋に同僚がいる。

朔の手が、ゆめの口を塞いだ。手首を押さえていた手を離し、代わりに口を覆う。
ゆめの両手が自由になった瞬間——朔は構わなかった。

逆鱗から唇を離し、顔を上げた。

ゆめを見下ろしている。

月明かりの中。畳に押し倒された小さな体。乱れた着物。露わになった逆鱗が、朔の唾液に濡れて光っている。
口を塞がれた星のような瞳が、潤んで見上げてくる。

朔「……これがバレたら」

声が低い。

朔「月詠に知られたら——朧に知られたら。お前は…。」

どうなる。監禁か、それともさらに使い潰されるか、処刑か、考えたくもない。

手が口から離れた。代わりに、ゆめの頬を掴んだ。顔を上に向かせる。

朔「…分かってるのか」

ゆめの目を、真っ直ぐ見ている。

朔の瞳が揺れていた。怒り。恐怖。そして——それらの奥に、もっと深い、名前のつかない感情。

朔「……答えろ」

沈黙。

ゆめの瞳が、月明かりの中で星のように光っている。乱れた着物。唾液に濡れた逆鱗。頬を掴む朔の指が震えている。

返事がない。

朔の親指が、ゆめの頬骨を強く押した。顔を固定するように。逃がさないように。

朔「俺が——何年、お前の隣にいたと思ってる」

声が裂けた。

朔「背中を預けて。庇って。襟を直せと言って——その下に、こんなものがあるのを」

指が頬から顎へ滑り、首筋を掴んだ。締めてはいない。だが逃げられない力。

朔「一言も、言わなかったのか」

喉を掴んだ手の下で、ゆめの脈が速く打っている。

朔「……俺は、信用されてなかったのか」

最後の一言だけが、かすれて小さかった。

「だって……気持ち悪がられると思って……」

朔の手が止まった。

首筋を掴んでいた指が、力を失った。

「気持ち悪い」。

その言葉が、暗い部屋の中に落ちた。

朔「……気持ち悪い?」

声が低い。だが怒りではない。もっと深い場所から出ている音。

朔「気持ち悪いだと」

首から手を離した。ゆめの顎を掴み直し、顔を上に向かせた。月明かりの中、潤んだ星のような瞳が朔を見上げている。

朔「——お前、俺を馬鹿にしてるのか」

掠れた声。喉の奥が焼けている。

朔「何年隣にいたと思ってる。何年背中を預けてきたと思ってる」

親指がゆめの頬を押した。涙の跡を辿るように。

朔「お前の体に何があっても——」

言いかけて、止まった。

朔は黙ったまま、体を沈めた。ゆめの上に覆い被さり直し、着物の合わせをさらに開いた。
逆鱗が完全に露わになる。月光を受けて虹色に揺らめく黒い鱗。朔の唾液がまだ表面に残っていて、光を弾いている。

朔の唇が、逆鱗に落ちた。

二度目の口づけ。

今度は違った。さっきのような衝動ではない。ゆっくりと、確かめるように。硬い鱗の表面を唇が辿る。
縁から中心へ。鱗と肌の境界線を、舌先が丁寧になぞった。

ゆめの体が震えた。両手が自由になっているのに、抵抗しなかった。朔の髪に指が触れた——掴んだのか、縋ったのか。

朔「……気持ち悪いか」

逆鱗の上で、唇が震えた。

朔「これが——気持ち悪いか」

舌が鱗の中心を押した。脈打つ。ゆめの体が跳ねる。甘い声が漏れる。

朔「お前の体だろうが」

歯が逆鱗の縁を噛んだ。軽く。だが確実に。鱗が朔の歯の感触に反応して明滅し、ゆめの背中が畳から浮いた。

朔「——俺がこれを気持ち悪がると思ったのか」

顔を上げた。

 

月明かりの中、朔の目が濡れていた。泣いているのではない。怒りでもない。名前のつかない感情が、黒い瞳の底で燃えている。

朔「黒龍だろうが何だろうが」

ゆめの髪を掴んだ。黒い髪。祝福の白を持たなかった髪。朔の指の間を、絹のように滑る。

朔「お前はお前だ」

低い。震えている。壊れかけの声。

朔「俺の——」

言葉が途切れた。

「俺の」何だ。同僚か。相棒か。守る対象か。

朔の口が、答えを見つけられないまま閉じた。代わりに、唇がゆめの額に落ちた。鱗ではなく。肌に。髪の生え際に。

長い沈黙。

朔の呼吸だけが聞こえる。荒い。不規則。ゆめの心音と混じり合って、暗い部屋の中に溶ける。

朔「……二度と言うな」

額に唇を押しつけたまま。

朔「気持ち悪いなんて——二度と、自分に言うな」

唇が重なった。

深い。

朔の舌が、ゆめの唇を割って侵入する。小さな口。熱い内側。歯列を越え、舌先が絡む。ゆめの喉から、くぐもった声が漏れた。呑み込まれる。音になる前に、朔の口の中へ。

朔(——小さい)

朔(口の中まで、こんなに)

舌がゆめの舌を押しつぶした。逃げようとする柔らかい肉を追い、絡め、吸い上げる。唾液が混じる。喉の奥まで探るように、角度を変えて何度も深く入り込んだ。

ゆめの指が、朔の髪を掴んだ。

引き剥がすためではなかった。縋るように。朔の後頭部を掴んだまま、小さな手が震えている。

朔「っ……ん」

朔の喉からも、声が漏れた。

大きな手が、ゆめの頬を包んだ。両側から。顔を固定し、逃げ場をなくして、さらに深く。ゆめの顎が開かれる。息が苦しくなるまで、朔は離さなかった。

ようやく唇が離れた時、銀の糸が月光に光った。

ゆめの唇から、顎へ。濡れた跡が伝う。

朔「——はっ、……」

朔の息が荒い。目の焦点が、ゆめの濡れた唇に合っている。

朔「……名前」

掠れた声。

朔「今、俺の名前を呼んだな」

親指が、ゆめの濡れた下唇を拭った。拭ったはずなのに、塗り広げただけだった。

朔「もう一回」

低い。喉の底から。

朔「呼べ」

言葉を待たなかった。

朔の唇が、再びゆめの口を塞いだ。今度は噛みつくように。下唇を歯で挟み、舌で舐め、また深く侵入する。
ゆめの体が畳の上で跳ねる。朔の膝が、着物の裾を割ってゆめの脚の間へ押し込まれた。白い太腿が月明かりに晒され、朔の腿が内側に当たる。

着物が肩から完全に落ちた。肌着の紐が解け、豊かな胸が零れ出る。逆鱗の黒が、白い肌の中で脈打っている。

朔の手が、胸を掴んだ。

口づけたまま、指が沈む。柔らかい。溢れる。朔の掌から逃げ出すほどの量。親指が先端を探し、見つけ、押し潰した。

ゆめの悲鳴が、朔の口の中で砕けた。

朔「……っ」

唇を離した。ゆめの耳元へ、顔を寄せる。

朔「声、出すなって言っただろ」

囁き。耳朶に、唇が触れる距離。

朔「隣に、聞かれる」

熱い息が耳に流れ込んだ。ゆめの全身が震えた。弱い場所。知っている。もう知ってしまった。

朔の舌が、耳の縁を舐めた。

朔「……それとも」

歯が耳朶を噛む。

朔「聞かれたいのか」

空いた手が、ゆめの太腿の内側を撫で上げた。着物の裾の奥へ。ゆっくりと。皮膚の薄い場所を辿って、上へ。

朔「……俺の女だって、全員に」

第11話 / 全13話
  1. 第1話 出会い
  2. 第2話 保護者じゃねえ
  3. 第3話 お昼休みとお呼び出し
  4. 第4話 謝罪は形だけ
  5. 第5話 それぞれの胸の内と外周警護
  6. 第6話 外周に集まらないでください
  7. 第7話 暇潰しとお土産
  8. 第8話 半歩先の相棒
  9. 第9話 宴のあとにお呼び出し
  10. 第10話 霊符越しの声と、近すぎる相棒
  11. 第11話 いつもの朔じゃない
  12. 第12話 超える一線
  13. 第13話 ここにいて